2025年のエンタープライズクラウド:コスト、複雑さ、AIのバランスの実現

2025年のエンタープライズクラウドは、コストの最適化、インフラストラクチャ管理におけるAIの役割拡大、IT戦略の将来性確保のための企業の取り組みによって、その意義が決まると予想されます
 
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Mousume Roy
Mousume Roy
Associate General Manager, Global Thought Leadership
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2025年のエンタープライズクラウド:コスト、複雑さ、AIのバランスの実現

クラウドの導入が加速するなか、現在では企業の87%がマルチクラウド戦略において複数のクラウドプロバイダー(平均3社)を利用しており、一方で企業の73%がアプリケーションの移行時にリファクタリングを行っています。こうした状況からは、クラウドネイティブなモダナイゼーションへの決定的なシフトが浮き彫りになっています。このような知見をまとめたHCLTechの調査レポート「クラウドの進化:モダナイゼーションの必要性」では、現代企業におけるクラウド環境の複雑性と戦略的重要性の高まりに焦点を当てています。

HCLTechの「トレンド & インサイト」では 、経験豊富なテクノロジーリーダーであるHCLTechのグローバル・テクノロジーインフラストラクチャ&デリバリー・ディレクター、Andrew Moodyの独占インタビューを掲載しています。Moodyは、進化するクラウドコンピューティングの役割を強調するとともに、アーキテクチャ、インフラストラクチャ管理、コスト効率への影響など、企業のクラウド導入に関する主要なトレンド、課題、戦略的検討事項について解説しています。

企業のクラウド導入が進化するにつれ、高性能なアーキテクチャとコスト効率の両立は依然として重要な課題となっています。クラウドの支出を最適化するためには、強力なガバナンスだけでなく、個人レベルと組織の両方のレベルにおける財務の可視化が必要です。Moodyによると、クラウド環境におけるコスト管理を成功させるには、二方面のアプローチが必要です。すなわち、財務面のインサイトを提供してチームを支援しつつ、一元的なガバナンスを活用して規模を拡大するというアプローチです。

Andrew Moody, Director of Global Technology Infrastructure & Delivery at HCLTech

HCLTech、グローバル・テクノロジーインフラストラクチャ&デリバリー・ディレクター、Andrew Moody

企業のIT戦略における多数のツールのひとつとしてのクラウド

「クラウド上でソリューションを実行するためのコストを、プロジェクトチームが明確に把握できるようにする必要があります。各チームが、自分たちの決定が財務に与える影響を理解していなければなりません。一方、一元的ガバナンスを担当するチームは、組織がスケールメリットを活用できるようにする必要があります」とMoodyは強調します。

消費財業界最大手の1社であるUnileverでは、HCLTechの支援によってクラウド変革に取り組み、わずか18か月のうちにクラウドオンリーの企業に生まれ変わりました。複数のプロバイダーにまたがる業務を合理化し、統一されたコストガバナンスの枠組みを導入することで、Unileverは支出に関する詳細なインサイトを取得して、全社で確実に割引を利用できるようになりました。その結果、パフォーマンスと俊敏性を高めつつ、インフラストラクチャのコストを30%削減できました。

クラウド支出の最適化を目指す企業にとって、構造化されたアプローチは不可欠です。チームレベルでクラウド支出の透明性を確保することで説明責任が育まれます。また、一元化されたガバナンス機能によって、一括交渉とプロアクティブなリソース管理を通じたコスト効率の向上が促進されます。活用が不十分なリソースを特定し、利用を終了することで、組織はパフォーマンスを損なうことなく不要なコストを抑制できます。

このように、財務の管理とオペレーションの俊敏性をバランスよく両立すれば、クラウドはコストがかさむ要素ではなく、財政の統制を維持しながらイノベーションを推進するうえで役立つ、組織にとって強力な武器となります。「クラウドコンピューティングが業界で注目され始めたころ、ほとんどの大企業、特に金融サービス企業は無関心、というよりこの技術を敬遠していました。しかし、他の企業での活用例を見て、小規模な試験運用を開始し、すぐにその大きなメリットに気づいたのです」とMoodyは述べています。

このような変化を経て、多くの企業はクラウド環境のセキュリティ管理、財務管理、リスク評価を統括するガバナンスチームを集中的に設置するようになっています。企業は当初、「クラウドファースト」または「クラウドオンリー」のスタンスに傾きましたが、すべてのワークロードがクラウドでのホスティングに適しているわけではないことがすぐに明らかになりました。

大企業にとっての今後のクラウドコンピューティングでは、多様なワークロードに適したテクノロジーの組み合わせを選択することが重要になります。一方、中小企業にとってはオールクラウドのアプローチが有効かもしれませんが、企業は自社のインフラストラクチャを総合的に評価して、オンプレミスに残すアプリケーションとクラウドに移行するアプリケーションを判別しなければなりません。

データセンター移行における重要な検討事項

AWSはデータセンターのアップグレードを検討する企業にとって魅力的なプラットフォームですが、移行を成功させるには慎重な計画が必要です。Moodyは、クラウド移行の成否を左右する3つの重要な要因を挙げています。

1つ目は、シームレスな移行を保証するための、セキュリティ、アクセス制御、財務管理の全体を把握できる専門のガバナンスチームの設置です。2つ目は、クラウド移行は単なる技術面の変更ではないため、クラウドの機能を有効活用するために必要となる、従業員のスキルアップへの多大な投資です。そして3つ目は、特に銀行や医療などの業界で重要な、金融規制やデータセキュリティ・プロトコルの遵守です。

「組織は、AWSやクラウドコンピューティング全般に関する従業員教育に必要な時間と労力を過小評価しがちです。クラウド導入を効果的に行うには、トレーニングとスキル強化が不可欠です」とMoodyは指摘します。これらの課題への取り組みを事前に計画することで、企業はクラウド移行に伴うリスクを軽減しながら、効率を高めることができます。

クラウドインフラストラクチャ管理におけるAI活用

人工知能 (AI)は、企業がクラウドとインフラストラクチャを管理するうえで画期的な役割を果たす技術であり、運用効率、セキュリティ、意思決定を強化します。異常の検知から予知保全までに至る広範なAI活用型ソリューションを使用することで、リスクを事前に特定し、リソースを最適化できます。

「AIは、大規模で複雑な環境での異常の検知において、人間よりもはるかに優れています。企業は今後、プロアクティブなインフラストラクチャ管理やビジネスプロセスの自動化にますますAIを活用するようになっていくでしょう」とMoodyは説明します。AIを利用するセキュリティツールはリアルタイムで脆弱性を検出でき、機械学習モデルはシステム障害を事前に予測してダウンタイムを短縮します。

HCLTechと提携した金融サービスプロバイダーのお客様事例では、ビジネスプロセスの自動化における生成AIの有効性が明確に表れています。この事例では、品質エンジニアリングプロセスを強化することと、このお客様企業で従来ソフトウェア開発ライフサイクルの主流であったAPIと統合テストに要する時間の短縮と労力の軽減が目標でした。

AWSで生成AIを活用することで 、HCLTechはAPIテストの工数を72%、統合テストの工数を56%削減できました。この際に実装されたソリューションには、組織内の知識を向上させて、全体的な生産性を高め市場投入までの期間を短縮するための社内向け大規模言語モデル(LLM)も含まれています。この変革により、お客様のCI/CDパイプラインの効率性と安定性は大幅に向上しました。

しかし、AIの進歩のペースが急速であることを考えると、企業はクラウド戦略を強化する最新機能を継続的に評価し、機敏性を維持しなければなりません。HCLTechのクラウドリサーチ・レポートで概説されている上述のような知見には、クラウドインフラストラクチャの未来を形作るうえでのAIの役割が拡大していることが強く表れています。

メインフレームとクラウド:適切なバランスの確保

クラウドコンピューティングへの移行が広まっているにもかかわらず、企業のITでは依然としてメインフレームが重要な役割を果たしています。多くのレガシーアプリケーションがメインフレーム上で実行されており、クラウドへの移行は非常に高コストになることが少なくありません。

「メインフレームの移行における最大の課題はコストです。メインフレームで稼働しているアプリケーションの多くは数十年前のものであり、組み込まれたビジネスロジックを理解するには多大な労力が必要です。端的に言って、多くの場合、移行には投資に見合う財務的メリットはありません」とMoodyは言います。

多くの企業は完全な移行ではなく、クラウド環境をメインフレームのシステムと統合するハイブリッド戦略を採用しています。このアプローチにより、メインフレーム運用の安定性と信頼性を維持しながら、ITインフラストラクチャをモダナイズすることができます。

メインフレームとクラウドの統合における主な課題

  • 移行コストの高さ:クラウドとの互換性を確保するためにレガシーコードを書き直す場合、極めて高コストになる可能性があります。
  • 統合の複雑さ:クラウドアプリケーションとメインフレームシステムの接続には専門的な知識が必要です。
  • セキュリティへの配慮:セキュリティと規制に関する基準を確実に遵守することが非常に重要です。

メインフレームに残すワークロードとクラウドに移行するワークロードを戦略的に評価して判断することで、混乱を最小限に抑えながら効率を最大化できます。

 

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次世代のITリーダーの育成

クラウドコンピューティングとエンタープライズアーキテクチャの進化に伴い、次世代のITプロフェッショナルの育成がこれまで以上に重要になっています。メンターシップの必要性を重視するMoodyは、急速に変化するテクノロジー環境では、キャリア全体を通して学習を続けることが重要であると強調します。

「今日、非常に多くの学習リソースがありますが、そこで難しいのが不要なものを除外することです。メンターとしての私の役割は、各人が効率的に専門知識を身につけられるよう、最も適切で価値のあるリソースを提示することです」とMoodyは語ります。

メンターシッププログラム、オンラインコース、実地学習型のプロジェクトは、次世代のクラウドアーキテクトやエンタープライズアーキテクトを育成するために不可欠なツールです。継続的に学習する文化を醸成することで、企業は将来のイノベーションを推進するために必要な経験を備えた人材を確保できます。

今後も引き続き、クラウドコンピューティングは企業ITの要となりますが、その役割は進化し続けるでしょう。企業は戦略的なアプローチを採用し、コスト、パフォーマンス、セキュリティ、コンプライアンスのバランスをとりながら、クラウド導入のメリットを最大化する必要があります。AIを活用した自動化、メインフレームとクラウドのハイブリッド戦略、従業員のスキル強化は、企業インフラストラクチャの将来を形作る重要な要因となることが見込まれます。

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