ソフトウェアデファインド・ビークル(SDV):シフトレフト戦略による新時代の検証

ソフトウェアデファインド・ビークル(SDV)にシフトレフトのアプローチを取り入れることで、仮想モデルによる早期かつ継続的な検証を実行し、自動車産業における効率性、安全性、革新性を高めることができます
 
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Siba Satapathy
Siba Satapathy
Executive Vice President – Automotive, Aerospace, Defense & Govt. Sectors
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ソフトウェア定義の自動車:シフト・レフト戦略による検証の新時代

急速に進化する現在の自動車業界において、技術革新はもはや単なる競争上の優位性ではなく、生き残るために不可欠なものとなっています。業界がコネクテッドでソフトウェア主導の未来へと移行する中、自動車メーカーは大きな岐路に立っています。2030年までに、新車の95%がコネクテッドカーになると推定され、大きなビジネスチャンスが到来します。Boston Consulting Groupは、ソフトウェアデファインド・ビークル(以下SDV)が2030年までに6,500億ドル以上の利益をもたらし、市場の総価値の20%を占めると予測しています。このようなテクノロジーに戦略的に投資する自動車メーカーは、収益とブランドのリーダーシップを大幅に強化できる立場にあります。

ソフトウェアが注目を集めるにつれ、後期段階に行う従来の検証とテストでは不十分であることがわかってきました。SDVの複雑さ、規模、継続的な進化に対応できるよう、アプローチを変えていく必要があります。従来のハードウェア中心の逐次検証モデルでは、後期段階にソフトウェアテストを行いますが、あまりに時間がかかり、柔軟性に欠け、大規模な物理テストが必要になりがちです。そのため、新機能の展開が遅れ、アップデートを統合できず、実世界のデータと技術の進歩に対応する能力を組み込めないといった課題が生じます。さらに、このサイクルはリソースを大量に消費するため、自律型システムの迅速な最適化や拡張が困難です。また、従来のシミュレーションも、複雑な実世界の状況を正確に反映するには無理があります。コンピューティング機能にも限界があるため、シミュレーションと実際の性能の整合性が取れず、信頼性と安全性に影響を及ぼす可能性があります。ハイペースなソフトウェア開発と転換しつつある電気/電子(E/E)アーキテクチャに対応するため、業界は検証戦略を見直し、効率性の向上、イノベーションの促進、安全性の強化、開発コストの削減を目指す必要があります。

シフトレフトのアプローチ:早期に検証し、継続的にテスト

「シフトレフト」のアプローチは、計画、設計、コーディングといった開発ライフサイクルの早い段階で、テスト、QA、リスク軽減を統合する戦略です。自動化、継続的統合、DevOpsを活用することで、不具合を早期に発見し、市場投入までの期間を短縮して、後期段階の修正を最小限に抑えます。各イテレーションに品質チェックが組み込まれるため、アジャイルでレジリエントなプロセスが実現します。

仮想検証

仮想検証では、仮想モデル(ハードウェアとソフトウェア)を使用して、実際の走行条件とシステムの相互作用をシミュレーションします。これにより、先進運転支援システム(ADAS)や自律走行機能のような複雑なシステムを、物理テストの前に制御された環境で早期に検証できます。このアプローチで、自動車メーカーは潜在的な問題の発見、性能の最適化、信頼性の向上、サイクルの後半に生じうるコストのかかる変更を削減できます。

仮想検証が自動車業界に不可欠な理由

  • コスト効率:仮想検証は、高額な物理プロトタイプやテストの必要性を減らし、OEMにとって大きな負担となる研究開発/製造コストを削減します。
  • 市場投入までのスピード:自動車業界では、市場投入までの期間がますます重要になっています。仮想検証は製品開発プロセスを迅速化し、設計とシミュレーションの迅速なイテレーションを可能にして、開発とテストの時間を短縮します。
  • 安全性と品質の向上:仮想検証では、制御された環境で徹底的なテストを行うことができます。OEMは、衝突テストからハンドリングダイナミクスまでさまざまなシナリオをシミュレーションして、車両の安全性を確保し、製造前に最高の品質基準に準拠できます。
  • 規制遵守:排出ガス、安全性、持続可能性に関する規制が強化される中、OEMは仮想検証の強固なテストプラットフォームを活用することで、物理モデルを製造する前にコンプライアンスを確保できます。
  • イノベーションの促進:実世界でテストするにはリスクが高く、コストがかかりすぎるような新しい設計や素材でも、仮想検証であれば実験可能です。特に電気自動車(EV)や自律走行などの分野では、大胆なイノベーションにつながります。

OEMで仮想検証の完全導入が進まない理由

AIモデリングクラウドベースのプラットフォーム、継続的な開発と統合戦略に多額の投資を行っているにもかかわらず、自動車業界は最新のソフトウェアとレガシーシステムの統合に課題を抱え、サイバーセキュリティの確保や変わり続ける規制基準への準拠に苦慮しています。

HCLTechでの経験に基づくと、以下のような課題が考えられます。

  • データの複雑さと統合:仮想検証は広範で正確なデータを活用し、実際の状況を再現します。このデータを部門間で統合する際に、サイロや非効率性が生じ、デジタルツールと既存システムをうまく連携できないことがあります。
  • 変化への抵抗感:自動車業界では従来、物理的な試作と現実でのテストが重視されています。仮想検証モデルへの移行にはあらゆるレベルでの文化的な変化が必要ですが、シミュレーションだけに頼ることに懐疑的なエンジニアは一定数存在します。
  • 人材不足:仮想検証には、高度なシミュレーション、機械学習、データ分析、クラウドエンジニアリングなどに長けた専門家が必要ですが、このような人材は著しく不足しています。
  • レガシーシステム:多くのOEMは今もなお、最新のシミュレーションツールとの統合に適していない旧来のテクノロジーを利用しています。従来のシステムから最先端のデジタルプラットフォームへの移行は複雑で、時間もコストもかかります。
  • 高額な初期投資:仮想検証テクノロジーを導入し、ツール、ハードウェア、データストレージを整備するには多額の初期投資が必要であり、特に中小メーカーや旧来のメーカーにとって許容できない額となる場合があります。
  • 規制に関する懸念:仮想検証の精度をよそに、一部の規制当局は依然として、物理的なテストによる認証を義務付けています。そのため、特に衝突シミュレーションなどの重要な安全性テストにおいて仮想検証の全面的な採用をためらうOEMは少なくありません。

普及への道を開く

HCLTechは、多くのOEMに協力し、仮想検証の導入に伴う課題の解決を支援してきました。OEMがこれらの障壁を克服するには、次のような戦略が必要です。

  • 戦略的パートナーシップ:テクノロジープロバイダー、ソフトウェアベンダー、デジタルトランスフォーメーション・コンサルタントと連携し、技術や専門知識のギャップを埋めます。このようなパートナーの強みを活用することで、OEMは仮想検証ツールを迅速に導入できます。
  • 段階的な統合:段階的なアプローチで仮想検証を導入します。一度に全体を切り替える場合よりも効果的に移行を管理できます。
  • 人材開発への投資:自動車業界は、ソフトウェアのテスト、シミュレーション、AI、データサイエンスに長けた人材の育成をこれまで以上に重視する必要があります。トレーニングプログラム、学術界との連携、エンジニアリングサービス・プロバイダーとの協力が重要です。
  • レガシーシステムの最適化:既存のITインフラを近代化し、新たなデジタルツールとレガシーシステムをスムーズに統合して、仮想検証へのシームレスな移行を促進します。
  • 規制当局への働きかけ:規制機関に積極的に働きかけ、仮想検証が物理的なテストを補強し、基準等の変更にも対応できるものであることを示します。

レベル4のvECUを基盤にすると、ハードウェア検証のシミュレーションと回帰テストを物理的なハードウェアを使用せずに組み込むことができます。HCLTechのTest Sphereは、仮想テストベンチの構築に役立つエコシステムです。HCLTechは、ハンズフリー運転機能に焦点を当てつつ、レベル3の自動運転とADASテストへの対応を進めています。

HCLTechは、コンピューティングと組み込みシステムに関する中核的な業務において「シフトレフト」のアプローチに継続的に注力、投資して、設計、開発、テストなどの重要なプロセスを製品ライフサイクルの早い段階で統合しています。私たちの専門家チームは、SILテストベンチの設計と開発を概念化し、大きな進歩を遂げました。また、自動化やクラウド移行を用い、社内のKDT(Keyword-Driven Testing)フレームワークも幅広く活用して、開発プロセス全体で効率性とイノベーションを推進しています。

今後の展望:シミュレーションから自己学習システムへ

今後10年で仮想検証、AI、デジタルツインが融合し、車両のテストと開発に変革をもたらすでしょう。AIで強化したシミュレーションとデジタルツインにより、複雑で効率的なテストシナリオを作成し、物理的な試験に関する時間とコストを大幅に削減できます。

  • AIを活用したシミュレーション:AIはモデリングと分析を強化し、複雑な運転シナリオとリアルタイムの最適化により迅速な検証を実現します。
  • デジタルツイン:車両やシステムのデジタルレプリカをリアルタイムに作成し、開発ライフサイクル全体で継続的なモニタリング、テスト、最適化を行います。また、車両の挙動、パフォーマンス、潜在的な故障点に関する貴重なインサイトを提供し、特にADAS(先進運転支援システム)や自動運転などの高度なテクノロジーを搭載した自動車システムを正確かつプロアクティブに検証できるようになります。
  • クラウドベースの検証:クラウドベースのプラットフォームは、拡張可能な計算資源を備え、シミュレーションやテストから得た膨大なデータの処理を促進し、リアルタイムのグローバルコラボレーションや継続的な統合とテストを実現して、迅速なフィードバックループを構築します。さらに、イテレーションサイクルの迅速化や拡張性の向上を実現し、現実性やコストの面で物理的に再現できない諸条件でのシミュレーションに対応します。

     

責任あるAIの登場:ビジネスの必須条件

 

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自動車開発の未来

自動車業界の未来は、仮想検証を中心とするデジタルトランスフォーメーションと深く結びついています。さまざまな課題は残りますが、開発の合理化、コストの削減、安全性の向上、イノベーションの加速など、メリットは計り知れません。さまざまな複雑さを解消したOEMには、大きな見返りが待っています。

HCLTechは、自動車メーカーが仮想検証のメリットを最大限に享受できるよう支援します。シミュレーションとデータ主導のインサイトを活用することで、OEMは効率性と持続可能性に優れたインテリジェントな車両開発を実現し、自動車における次の時代のイノベーションを促進できるようになります。

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