半導体活用の真の課題とは
半導体市場は、2023年の6,270億ドル規模から2030年までに1兆ドルを超える規模へと成長すると予測されています。PwCは、この成長を自動車、ヘルスケアをはじめとするさまざまなエンドマーケットにおける需要拡大によるものと分析しています。しかし、半導体を利用する企業にとっての課題は、もはや半導体そのものが存在するかどうかではありません。重要なのは、それらを適切に統合し、運用し、そして数年から数十年にも及ぶ製品ライフサイクルを通じて安定的に維持できるかどうかです。The Silicon Shift は、この制約に焦点を当てた調査レポートです。本調査は、独立系市場調査会社である Coleman Parkes Research によって実施され、自動車、医療技術、ネットワーク機器、産業オートメーション分野におけるエンジニアリング、研究開発(R&D)、ハードウェア部門の意思決定者300名を対象に、自動車、医療技術、ネットワーク機器、産業オートメーションの各分野にわたり、米国、欧州、アジアで調査を実施しました。さらに、10名の経営層への詳細なインタビューによって内容を補完しています。
300名の意思決定者への調査から見えた実態
3年前と比べて半導体への依存度が高まったと回答。さらに、99%が今後もその依存度は高まると予想しています。
半導体技術は自社のニーズを十分に満たしていると回答。一方で、半導体サプライヤーについて同様の評価をしているのは69%にとどまります。
現在のソリューションが期待どおりの成果を上げられていない最大の理由として、「統合の複雑さ」を挙げています。これはサプライチェーンの制約(14%)や性能面の課題(13%)を上回る結果となりました。
今後は、エンジニアリングパートナーとの協業、エンジニアリングサービス、パートナー主導による導入支援、またはハイブリッドモデルを通じて課題解決を図ると考えています。一方で、汎用半導体(オフ・ザ・シェルフ・シリコン)への依存拡大を見込む回答者はわずか4%でした。
誰も担い手となっていないギャップ
半導体そのものについて尋ねると、企業の評価は概ね良好です。現在利用している半導体技術が自社のニーズを十分、あるいは非常に満たしていると答えた企業は91%に達しました。しかし、その提供企業について尋ねると状況は変わり、同様に評価した割合は69%にとどまりました。
この差は、半導体メーカーへの批判を意味するものではありません。むしろ、それは誰も担うように設計されてこなかった領域の存在を示しています。半導体メーカーは優れた半導体を設計しますが、それを規制の厳しい医療機器やソフトウェア定義車両(SDV)、あるいは通信事業者向けのネットワークへと統合することは、本来の役割ではありません。
半導体を活用する企業は今、その戦略における最大の難所が「チップそのもの」ではなく、「チップと最終製品の間」に存在することに気付き始めています。そして、その領域について明確な責任を負う企業や組織は、ほとんど存在していません。
データは別の角度からも同じ事実を示しています。現在のソリューションが期待した成果を達成できない主な理由として、回答者が最も多く挙げたのは「統合の複雑さ」でした。これは、供給面の制約、性能、コストを上回る結果となっています。
さらに、パートナー企業にどの分野でより大きな価値を期待するかを尋ねたところ、上位5項目すべてが過半数の支持を集めました。
統合支援(67%)
サプライチェーンおよびライフサイクル支援(61%)
業界知識・業界理解(59%)
システムレベルアーキテクチャ設計(55%)
AIに関する専門知識(53%)
主なインサイト
現在の半導体技術は自社のニーズを満たしていると回答。一方で、半導体プロバイダーについて同様の評価をしたのは69%にとどまりました。
現在のソリューションが期待どおりの成果を上げられない主な要因として、統合の複雑さが挙げられています。
パートナー企業に最も期待する支援として、ハードウェアとソフトウェアの統合を挙げています。
企業はどのような選択をしているのか
こうした課題に直面する中、企業はある選択を行いつつあります。そして、その選択には非常に明確な傾向が見られます。
回答者の34%は、現在のアプローチを継続する見込みです。一方で、今後の方向性として主流となっているのはパートナー主導のモデルです。具体的には、外部のエンジニアリングパートナーの活用(20%)、サービスプロバイダーやエコシステムパートナーと社内チームを組み合わせるハイブリッドモデル(18%)、そしてベンダーやエンジニアリングパートナーとの共同開発(14%)が挙げられています。さらに、エンジニアリングサービスパートナーの活用拡大も含めると、これらのアプローチは全体の59%を占めています。
一方で、ほとんどの企業が選択していないのは、自社単独でケイパビリティを構築することです。カスタム半導体への社内投資を増やすと回答した企業はわずか3%にとどまり、市販の汎用コンポーネント(オフ・ザ・シェルフ製品)への依存をさらに強めると回答した企業も4%にすぎません。
ほとんどの企業は半導体メーカーになろうとしているわけではありません。企業が求めているのは、ともに設計・開発を進めることのできるパートナーです。
ひとつの変化、4つの業界それぞれの進化
シリコンシフトは、あらゆる業界に共通する変化です。しかし、その影響の現れ方は業界によって異なります。自社に最も近い業界のインサイトをご覧ください。
「どのチップを選ぶか」から「どのコンピューティングプラットフォームを選ぶか」へ
現在では、100%の回答者が半導体のライフサイクル全体を支援できるパートナーを求めていると回答しています。
また、パートナーに不足している能力として、ライフサイクルサポート(73%)、ハードウェア/ソフトウェア統合(72%)を挙げています。
パートナーに求める知識・専門性
- Tier1サプライヤーエコシステム(80%)、EVプラットフォーム(79%)、ISO 26262(79%)、AUTOSAR(76%)
背景
- EVアーキテクチャとソフトウェア定義車両(SDV)の普及により、半導体に関する意思決定は上流工程へと移行しています。かつては部品選定が主な検討対象でしたが、現在では車両プラットフォーム全体に関わる判断となっており、その影響は複数世代の車両にまで及びます。
規制要件とイノベーションの両立
部品の製造終了(コンポーネントの陳腐化)を大きな課題として挙げた回答者は96%に達しており、これは4業界の中で最も高い割合です。
また、自社のニーズを半導体プロバイダーが満たしていると回答した割合は63%にとどまり、4業界中で2番目に低い結果となっています。
パートナーに求める知識・専門性
品質マネジメントシステム(91%)、医療機器ソフトウェア(87%)、IEC 62304(87%)、FDA/MDR規制(85%)
背景
イノベーションは、それを支える要件が満たされて初めて実現できます。
供給の継続性と規制遵守を証明できない医療機器は、どれほど高度な機能を備えていたとしても市場に投入することはできません。
AIがネットワークインフラのあり方を変える
回答者の87%が、AIによって自社ネットワークに求められる半導体の能力要件が根本的に変化していると回答しています。これは、今回の調査で最も強くAIの影響が表れた業界です。
一方で、自社のニーズを半導体プロバイダーが満たしていると回答した割合は59%にとどまり、4業界の中で最も低い結果となりました。
パートナーに求める知識・専門性
クラウドネイティブネットワーキング(89%)、高速・光ネットワークインフラ(84%)、ネットワーク仮想化(72%)、5G/6Gアーキテクチャ(71%)
背景
AIの普及は、ネットワークそのものの定義を変えつつあります。その変化に対応するため、ネットワーク機器メーカーは半導体レベルから設計を見直し、ネットワーク基盤を再構築しています。
最も急速に高まる半導体依存
回答者の75%が、3年前と比べて半導体への依存度が大幅に高まったと回答しており、これは4業界の中で最も強い伸びを示しています。
また、現在のソリューションにおける最大の課題として、65%が「統合」を挙げています。
パートナーに求める知識・専門性
PLC(プログラマブルロジックコントローラー)(81%)、Industrial IoT(IIoT)(77%)、Industry 4.0(64%)、工場自動化(61%)
背景
工場は、20年以上にわたって稼働する設備を基盤としたインテリジェントシステムへと進化しています。
そのような環境において、競争優位を左右するのは「統合」です。産業分野における優位性は、統合の成否によって決まると言っても過言ではありません。
リーダーの視点
エンジニアリング分野のリーダーたちとの対話で最も印象的なのは、危機感そのものではありません。危機感を持つことは当然だからです。むしろ印象的なのは、目指す姿と実現に向けた準備状況との間に存在するギャップです。半導体に関するケイパビリティが競争戦略の中核を担うことは理解しています。しかし、その目標にどう到達するのか、そして誰とともに到達するのかについては、まだ明確な答えを見いだせていないのです。

自動車は、走るコンピューターへと進化しました。今、顧客が問いかけているのは「どのチップを採用すべきか」ではありません。「どのコンピューティングプラットフォームなら、今後3世代にわたる車両開発を支えられるのか」を問うようになっているのです。

医療技術分野において、イノベーションは重要ですが、それだけでは十分ではありません。医療機器は市場投入後も、何十年にもわたり規制要件への適合、安定供給、そしてサポートの継続が求められます。部品の製造終了(Obsolescence)は、今や経営レベルで対応すべきリスクとなっています。そのため、ライフサイクルエンジニアリングこそが、顧客がパートナーに求めている中核的なケイパビリティなのです。

AIは単にネットワークトラフィックを増加させただけではありません。AIは、ネットワークそのもののあり方を根本から変えています。機器メーカーは半導体レベルから設計を見直しており、その焦点は、ワット当たり性能(Performance per Watt)、高速化・アクセラレーション技術、そしてハードウェアとソフトウェアの協調設計へと移っています。

産業分野は、本調査において最も急速に半導体依存が高まっている業界であると同時に、統合における課題も最も大きい業界です。予測可能性と高い安全性が求められる産業システムと、最新の半導体技術をいかに融合させるか。その取り組みこそが、今後10年にわたる産業分野の競争優位を左右することになるでしょう。

本レポートでわかること
- 業界別に見る半導体依存の実態と、その高まりのスピード
- ソリューションが期待どおりの成果を上げられない要因と、その最大の理由
- 4つの主要業界についての詳細分析 (各業界におけるケイパビリティの課題、ギャップ、パートナー戦略を考察)
- エッジAI、ハードウェア/ソフトウェア協調設計(Co-design)、アーキテクチャ要件の変化など、AIがもたらす影響
- カスタム半導体のロードマップ (企業が現在どの段階にあり、今後どこへ向かおうとしているのか)
- パートナーに求められる役割 (シニアバイヤーが現在パートナーに期待することを業界別に分析)
- 現場の声 (4業界を対象に実施した10件の詳細インタビューを紹介)
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