通信業界および隣接業界でAIの導入が加速していますが、HCLTechがMobile World Congress 2026に出展したブースでのパネルディスカッションでは、明確な区別が示されました。効率向上は始まりにすぎません。より本質的な変化は、AIが既存システムに重ねて導入される段階を超え、企業の中核的な業務運営そのものを再構築し始めたときに訪れます。
UC Berkeley教授の Dr. Saikat Chaudhuriが司会を務めたこのディスカッションには、Axiata Digital Labsの最高執行責任者である Loh John Wu、Ericssonのモバイル金融サービス責任者である Pavan Ramkishan Bachwal、HCLTechの戦略的エンゲージメント担当シニアバイスプレジデント兼責任者である Hari Nairが参加しました。それぞれの視点から浮かび上がった共通のテーマは、AIネイティブへの変革はツールの導入よりも、データ、プロセス、企業文化、ビジネスモデルの再設計に関わるということです。
生産性向上から収益拡大へ
Wu氏にとって出発点となったのは、具体的な効率向上です。Axiata Digital Labsの開発チームでは、エンジニアがAIを活用して記述するコード量を減らせるようにしたことで成果が生まれ、自社の開発センターでは「約20%、30%の効率向上」が見られました。しかし、この生産性の変化は最終目標ではなく、次の段階へ進むための足掛かりです。
より戦略的なインパクトは、パーソナライゼーションと収益成長にあります。東南アジアの低ARPU市場では、よりターゲットを絞ったプランや製品によりARPUをいかに向上させるかに注力してきました。Wu氏はカンボジアでの成功例を挙げ、AIを活用したパーソナライゼーションが「5ドル超に近いARPU」の実現に寄与したと説明しました。これはアジアの通信事業者にとって重要なマイルストーンです。
Wu氏は、消費者セグメンテーションにとどまらず、AIがケイパビリティの創出自体を民主化していることも説明しました。従来のAPIマーケットプレイスから始まったものは、AIを活用したアプリ作成モデルへと進化しました。「App Makerと呼ばれるその製品の次のバージョンはAIで動いており」、企業は自然言語で構築したいものを記述できます。
AIネイティブは、単なる社内効率化ではありません。エコシステムのより多くの参加者が、より迅速に価値を創出し収益化できるよう、摩擦を低減することにあります。
スピード、セキュリティ、セグメンテーション
Bachwal氏は、社内業務と顧客向けサービスという2つの観点からインパクトを捉えました。
業務面では、AIによって是正サイクルが大幅に短縮されました。かつて数週間を要したプロセスが変革されています。
脆弱性の修正には「以前は3週間かかっていた」と同氏は述べました。しかし、「今では3日です」。
バタフライ効果としてのモダナイゼーション
Nair氏は、議論をエンタープライズアーキテクチャへと戻しました。同氏がCIOの間で目にしてきた最も強力な意識転換の一つは、レガシーアプリケーションのモダナイゼーションを通じてもたらされました。現在では、「GenAIの支援により」、複数年にわたる変革施策のタイムラインを短縮できます。この加速は、モダナイゼーションプログラムの経済性と実現可能性を変えます。
その後に続くのは、連鎖的な効果だと同氏は主張しました。アプリケーション環境が統合されるにつれ、運用は簡素化され、サプライヤーエコシステムは縮小し、インフラストラクチャのフットプリントは削減されます。同氏はこのダイナミクスを「バタフライ・インパクト」と表現し、「シンプルなレガシーアプリのモダナイゼーションが、業務モデル全体を変える可能性がある」と述べました。
一方でNair氏は、AIネイティブのケイパビリティを拡大するための鍵はツールセットよりも組織の準備態勢にあると強調しました。優先すべきレバーが一つあるとすれば、それはチェンジマネジメントです。
「チェンジマネジメントに注力してください。これこそが、AIの導入とAIのスケーリングを支える唯一の要素です。」
テクノロジーは豊富にあっても、導入には人々が信頼し、適応し、一歩引いて捉え直すことが求められます。
企業文化、信頼、マインドセットの転換
パネル全体を通じて、企業文化が主要な制約として浮かび上がりました。
Wu氏は、技術部門以外のチームも働き方を見直す必要があると振り返りました。エンゲージメントを絞り込み優先順位を付けるために「AIエージェントを活用できる」にもかかわらず、マーケティング活動が手作業で行われていたことを例に挙げました。課題はAIへのアクセスではなく、習慣です。
Bachwal氏は人材移行を指摘しました。数十年にわたるコーディング経験を持つ熟練エンジニアは、置き換えへの不安を抱くことなくAIを統合する方法を学ぶ必要があります。一方、新たに参入する人材は、AIリテラシーと基礎スキルのバランスを取らなければなりません。こうした文化を融合することは、インフラストラクチャのアップグレードと同じくらい重要です。
Nair氏にとって、この変革には信頼に関するより深い転換が必要です。AIが認知作業を自動化し、意思決定を支援するなら、リーダーはAIがより中心的な役割を担うことを受け入れなければなりません。その文化的な受容がなければ、どれほど高度な導入であっても停滞します。
ガバナンス、電力、パートナーシップ
進展を加速させるために何を変えるべきかという質問に対する回答は、AIネイティブへの変革がいかに多面的になっているかを示しました。
Bachwal氏は、CPUからGPUへの移行と、それに伴うコストおよび電力への影響という実務的なインフラストラクチャ上の懸念を提起しました。課題は単に「すべてを入れ替える」ことではなく、大規模なAIワークロードを可能にしながら持続可能性を維持する移行モデルを設計することです。
Wu氏はガバナンスに焦点を当てました。ツール、モデル、プラットフォームが急増する中、組織は断片化のリスクに直面しています。LLMゲートウェイや共通標準によるガードレールは、チームが長期的な複雑性を生む方向に乖離することを防ぐために不可欠です。
そしてNair氏は、組織的なアラインメントに立ち返りました。強力なモデルが存在する世界でも、成功はリーダーシップの集中と協調的な変革にかかっています。
効率化から再創造へ
議論の締めくくりには、Chaudhuri氏が要約した明確な総括がありました。業界は重要な道のりを進んでいますが、依然として多くの取り組みが残されています。AIはすでにコスト効率と生産性向上を実証しています。しかし、真の最終目標は、コスト削減から収益向上へ、自動化から新たな価値創出へと移行することにあります。
重要なのは、パネルがテクノロジーそのものは主要な制約ではないとあらためて示した点です。モデルは急速に進化し、インフラストラクチャも発展しています。より困難な課題は戦略と組織にあります。すなわち、ビジネスモデルの再設計、プロセスの再構築、エコシステムのアラインメント、企業文化の変革です。
企業文化とマインドセットは、最大の障壁として繰り返し挙げられました。リーダーシップの確信と人材の足並みがそろわなければ、最も先進的なAI導入であっても停滞します。同時に、信頼を純粋に倫理上の議論として扱うことはできません。信頼できるデータ、確かなシステム、堅牢なガバナンスは、適切な意思決定の前提条件です。企業が出力を信頼できなければ、AIを中核ワークフローに組み込むことをためらうでしょう。
最後に、あらゆるものを一度に変革しようとしても、スケールは実現しません。進展には集中が必要です。インパクトの大きいユースケースをいくつか選定し、適切なパートナーと協業し、意図的にエコシステムを構築し、規律を持って反復することが求められます。
AIネイティブ企業は一夜にして生まれるものではありません。しかし、個別の実験を超え、基盤、業務モデル、バリューチェーンを再設計する企業が、プラットフォーム、ネットワーク、業界全体における次の時代を形づくるでしょう。





