AIは近年登場したテクノロジーの中でもひときわ革新的であり、私がHCLTechのパッケージアプリケーション・プラクティスの責任者として出会う経営幹部たちとの議論において、主要なテーマの1つとなっています。多くの議論ではビジネス上のユースケースが話題となりますが、私たちは戦略的優先事項の1つとして、AIがトランスフォーメーションプロジェクトの実行方法にどのような変化をもたらすか、具体的には、AIがプロジェクトの効率化やリスク低減にどのように寄与するかを検討することを挙げています。
「SAPトランスフォーメーション」や「デジタルトランスフォーメーション」には、ビジネスの全体的な目標に沿った戦略を実行するためにビジネス部門とIT部門の連携が欠かせないなど、さまざまな課題があります。このようなトランスフォーメーションに伴う既存の課題としては、費用対効果の高い方法で、タイムリーに具体的なROIを実現することなども挙げられます。それでも、テクノロジーを通じてトランスフォーメーションを推進しようという気運は、かつてないほど高まっています。
Gartnerによる2024年のCEO調査によると、2024年時点でCEOが考えるビジネス上の大きな優先事項として、テクノロジー関連の変革が2番目に挙げられています(1番目は成長)。ビジネストランスフォーメーションの次なる原動力として、AIがデジタルに代わって最優先のテーマになっています。レポートによると、CEOの59%がAIは自社の業界に最も大きな影響を与えるテクノロジーであると考えていて、87%が自社ビジネスにおけるAIのメリットはリスクを上回ると認識しています。
HCLTechでは、さまざまなプラクティスにわたるリーダーシップチームが、トランスフォーメーションに関する既存の課題の解決に取り組みながら、AIイニシアチブと概念実証(POC)を推進し、組織の規模に合わせてイノベーションやビジネスの成長を実現できるよう支援します。では、RISE with SAPへのSAP移行を例に、AIでSAPプログラムの実行をどのように変革できるのか説明します。
ECCからRISE with SAPとS/4HANAへの移行:経営幹部の懸念
SAPは2018年、SAP ECCや関連アプリケーションを利用するすべての企業が2025年までにSAP S/4HANAに移行する必要があると発表しましたが、その後期限は2027年に延長されました。期限が迫る中、プロジェクトは着実に進行していますが、依然として相当数の顧客がSAP S/4HANAへの移行をすませていません。SAP S/4HANAを利用するための主要な商用契約形態としてRISE with SAPが登場したことで、クライアントもクラウドソリューションへの移行が必要になります。その際、数多くのクラウドサービスから選択できるほか、SuccessFactors、Ariba、Business Technology PlatformといったSaaSベースの周辺アプリケーションとの統合も可能です。
このような状況から切迫感が生まれ、各社は差し迫った期限に間に合わせるために速やかな移行を余儀なくされています。経験豊富な移行の専門家や各種リソースが不足していることが状況をさらに複雑にし、効率的な実施を困難にしています。
Oracle FusionやWorkdayなどのほかのプラットフォームにもいえることですが、ワークロードをSAP S/4HANAに移行するプロセスは多面的な作業であり、複雑なプロセス、データ、カスタマイズ、構成を分析、移行し、クラウドインフラ内でシームレスに統合、最適化する必要があります。このような課題は、データの整合性やセキュリティ上の問題から、移行プロセス中の運用の中断に至るまで、組織にとって重大なリスクをもたらすことが少なくありません。
生成AIの役割
移行プロジェクトで重要なのは迅速であることとリスクが低いことであり、クライアントが新しいRISE with SAP環境で新機能を積極的に活用できるよう支援する必要があります。主要部分の移行は、ビジネスへのリスクを最小限に抑えつつ、迅速かつ正確に実行する必要があります。SAP S/4HANAへの複雑な移行を円滑に進める鍵は、中核となる作業に生成AIを取り入れることです。
高度な機械学習アルゴリズムと大規模言語モデル(LLM)を活用する生成AIは、移行プロセスのリスクを軽減し、デジタルトランスフォーメーションの目標達成を加速させ、プログラムの実行を変革する可能性を秘めています。
1. データ移行のリスク軽減:従来、移行におけるデータの特定、分類、マッピングは手作業で行われていて、人為的なミスや不整合が生じやすいものでした。しかし、生成AIを使えば、組織はデータを自動的に分析し、データマップを生成して、スムーズかつ迅速に移行できます。
2. 構成の分析と自動化:多くのクライアントが複数のERPインスタンスを運用しています。ECCからSAP S/4HANAに移行する方法は数多くありますが、統合というプロセスは難易度が高く、構成やデータの調和と統合が必要です。AIはECCの構成設定の分析、調和に役立ち、自動化によってこれらの設定をSAP S/4HANAインスタンスに統合できます。HCLTechのイノベーションチームは、対象となるSAP S/4HANAソリューションを24時間以内に構成できるように、AIを活用したプロセスの開発に取り組んでいます。
3. コードの修復と最適化:レガシーコードは、新しいクラウド環境と互換性がない場合が少なくありません。その場合、開発者が手作業でコードを修復し最適化する必要があります。生成AIは、クラウドインフラに適合するようにコードのリファクタリング案を生成し、移行時に互換性の問題が生じるリスクを低減します。
4. コード開発:SAPがBTPの一環として提供するツールを含め、すでに多くのローコード/ノーコードツールが存在します。しかし、生成AIを活用すれば、コンサルタントはこれまで以上に迅速にイノベーションや拡張機能を開発できるようになります。当社のイノベーションチームは、ABAPの新たなイノベーションの開発を加速させるためにSecure ABAP Coderツールの開発に取り組んでいます。
5. 自動テストと検証:移行を成功させるには、テストと検証が不可欠です。LLMと機械学習機能を備えた生成AIは、手作業だったテストケースやシナリオを自動化し、移行されたワークロードの品質と整合性を確保します。
6. プログラム実行の効率化:生成AIで人間のスキルを補完することで、組織はワークロードの移行やその他のデジタルトランスフォーメーションに関するタスクを成功させるために必要な熟練人材への依存度を低減できます。
全体として、生成AIの活用により、従来膨大な手作業を必要としていた多くのタスクを迅速化し、自動化できるようになります。技術的な実行の最も困難な部分を担っていた移行の熟練専門家への依存度を下げ、SAP S/4HANAの導入に伴う運用リスクを最小限に抑えて、価値実現までの時間を短縮できます。
しかし、SAPコンサルタントが必要なくなったわけではありません。多くの見解と同じように、私たちは多数の負荷の高い作業をスピードアップできる機会をAIに見出していますが、AIというテクノロジーには依然として人間によるガイドと検証が必要です。ただ、AIを活用すれば、少人数のチームがクライアントにビジネス価値をもたらす新機能の導入に力を入れられるようになることは確かでしょう。
AIの導入で、HCLTechのMigration Factory(移行ファクトリー)は今後どのようなものになるか?
HCLTechは、Migration FactoryをはじめとするAIを活用したツールに投資を行い、企業の移行プロセスの効率化を支援します。また、AIの活用による移行環境の変革についてのビジョンも提示しています。
Migrate+ 1.0
Migration Factoryの初期段階では、迅速な構成に重点を置きます。AIツールとHCLTechのHANASmart などのソリューションを活用して、カスタムコードを分析、修正できます。生成AIを組み合わせることで、カスタムコードのSAP S/4HANAへの移行を、数ヶ月ではなく数日で自動化できます。
Migrate+2.0以降
次の段階では、AIを活用したデータ移行を導入し、テストスクリプトの生成やトレーニング資料の作成を自動化して、総合的かつ効率的な移行プロセスを確保します。
将来的には、AIとRPAを活用して、カスタムコードを新しいSAP BTP機能に自動的に移行できるようにしたいと考えています。この戦略的ビジョンでは、継続的な改善と統合を重視し、SAP移行の長期的な成功を確実なものにします。
生成AIで新たな可能性を引き出す
生成AIを活用することで、企業はSAP S/4HANAのブラウンフィールドやブルーフィールドへの移行に伴うリスクを低減し、プログラム実行プロセスを効率化できます。RISE with SAPソリューションがもたらす新たなビジネス機能を有効化し、ビジネス価値を迅速に創出できます。
AIチーム、プロダクトチーム、デリバリパートナーなど、HCLTech全体で協力し、クライアントへのプロジェクト提供のあり方をさらに変革するための新たなビジョンを描き、実現に向けた可能性を模索しています。
今後、生成AIの力を活用し続けていく組織には、プログラムをより迅速かつ効率的に実行できる新たな可能性が開かれます。このような可能性は最終的に、ビジネスの成長やデジタル時代における競争優位性の維持につながるでしょう。
この記事の内容は、Sadagopan SingamがHCLTechのブランドジャーナリズム担当グローバルヘッドであるNicholas Ismailに語ったものです。
HCLTechはSAP SAPPHIRE 2024に出展します。ぜひブースにお立ち寄りのうえ、SAP S/4HANAへの移行に関するワークショップにご参加ください。パイロットプロジェクトや評価を開始するための次のステップについて詳しく解説します。




